姦姦蛇螺(かんかんだら)

姦姦蛇螺(かんかんだら)

707 姦姦蛇螺(1/17) 2011/06/26(日) 13:37:02.88 ID:0WuN67Vj0

ところが、入って五分もしないうちにおかしな事になった。
オレ達が入って歩きだしたのとほぼ同じタイミングで、何か音が遠くから聞こえ始めた。
夜の静けさがやたらとその音を強調させる。最初に気付いたのはBだった。

「おい、何か聞こえねぇか?」

Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。落ち葉を引きずるカサカサ…という音と、枝がパキッ…パキッ…と折れる音。それが遠くの方から微かに聞こえてきている。

遠くから微かに…というせいもあって、さほど恐怖は感じなかった。
人って考える前に動物ぐらいいるだろ、そんな思いもあり構わず進んでいった。
動物だと考えてから気にしなくなったが、そのまま二十分ぐらい進んできたところでまたBが何か気付き、オレとAの足を止めた。

「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ。」

「?…何でだよ。」

「いいから早く」

Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、またこっちへ戻ってくる。
それを見て、Bは考え込むような表情になった。

「おい、何なんだよ?」

オレ「説明しろ!」

オレ達がそう言うと
Bは「静かにしてよ?く聞いててみ」と、Aにさせたように一人で前へ歩いていき、またこっちに戻ってきた。二、三度繰り返してようやくオレ達も気付いた。

遠くから微かに聞こえてきている音は、オレ達の動きに合わせていた。オレ達が歩きだせばその音も歩きだし、オレ達が立ち止まると音も止まる。まるでこっちの様子がわかっているようだった。

何かひんやりした空気を感じずにはいられなかった。
周囲にオレ達が持つ以外の光はない。月は出てるが、木々に遮られほとんど意味はなかった。
懐中電灯つけてんだから、こっちの位置がわかるのは不思議じゃない…だが一緒に歩いてるオレ達でさえ、互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さだ。

そんな暗闇で光もなしに何してる?
なぜオレ達と同じように動いてんだ?

「ふざけんなよ。誰かオレ達を尾けてやがんのか?」

「近づかれてる気配はないよな。向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし。」

Aが言うように森に入ってからここまでの二十分ほど、オレ達とその音との距離は一向に変わってなかった。近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない。終始、同じ距離を保ったままだった。

オレ「監視されてんのかな?」

「そんな感じだよな…カルト教団とかなら何か変な装置とか持ってそうだしよ。」

音から察すると、複数ではなく一人がずっとオレ達にくっついてるような感じだった。
しばらく足を止めて考え、下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、一応あたりを警戒しつつそのまま先へ進む事にした。それからずっと音に付きまとわれながら進んでたが、やっと柵が見えてくると、音なんかどうでもよくなった。
音以上にその柵の様子の方が意味不明だったからだ。

三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。
同時にそれまでなかったある考えが頭に過ってしまった。
普段は霊などバカにしてるオレ達から見ても、その先にあるのが現実的なものでない事を示唆しているとしか思えない。それも半端じゃなくやばいものが。
まさか、そういう意味でいわくつきの場所なのか…?森へ入ってから初めて、今オレ達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。

「おい、これぶち破って奥行けってのか?誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」

「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ!」

柵の異常な様子に怯んでいたオレとAを怒鳴り、Bは持ってきた道具あれこれで柵をぶち壊し始めた。
破壊音よりも、鳴り響く無数の鈴の音が凄かった。

しかしここまでとは想像してなかったため、持参した道具じゃ貧弱すぎた。
というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、びくともしなかった。

結局よじのぼるしかなかったんだが、綱のおかげで上るのはわりと簡単だった。
だが柵を越えた途端、激しい違和感を覚えた。
閉塞感と言うのかな、檻に閉じ込められたような息苦しさを感じた。
AとBも同じだったみたいで踏み出すのを躊躇したんだが、柵を越えてしまったからにはもう行くしかなかった。

先へ進むべく歩きだしてすぐ、三人とも気付いた。
ずっと付きまとってた音が、柵を越えてからバッタリ聞こえなくなった事に。
正直そんなんもうどうでもいいとさえ思えるほど嫌な空気だったが、Aが放った言葉でさらに嫌な空気が増した。

「もしかしてさぁ、そいつ…ずっとここにいたんじゃねえか?この柵、こっから見える分だけでも出入口みたいなのはないしさ、それで近付けなかったんじゃ…」

「んなわけねえだろ。オレ達が音の動きに気付いた場所ですらこっからじゃもう見えねえんだぞ?それなのに入った時点からオレ達の様子がわかるわけねえだろ。」

普通に考えればBの言葉が正しかった。禁止区域と森の入り口はかなり離れてる。
時間にして四十分ほどと書いたが、オレ達だってちんたら歩いてたわけじゃないし、距離にしたらそれなりの数字にはなる。
だが、現実のものじゃないかも…という考えが過ってしまった事で、Aの言葉を頭では否定できなかった。柵を見てから絶対やばいと感じ始めていたオレとAを尻目に、Bだけが俄然強気だった。

「霊だか何だか知らねえけどよ、お前の言うとおりだとしたら、そいつはこの柵から出られねえって事だろ?そんなやつ大したことねえよ。」

そう言って奧へ進んでいった。

 

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