マネキン

マネキン

412 名前:かおる 投稿日:02/02/07 00:37

私には霊感がありません。
ですから、幽霊の姿を見たことはないし、声を聞いたこともありません。
それでも、ものすごく怖い思いをたった一度だけ、中学生の時に体験しました。
その話を聞いていただきたいと思います。

14歳のころ、父を亡くした私は、母の実家に引っ越すことになりました。
母方の祖父はとうに亡くなっていたので、祖母、母、私と、女3人だけの暮らしとなります。
私は、親が死んだショックから立ち直れないまま、新しい環境に早急に馴染まなくてはいけませんでした。 不安はあったのですが、私の身の上に同情してか、転校先の級友も優しく接してくれました。
特にS子という女の子は、転校してきたばかりの私に大変親切にしてくれ、教科書を見せてくれたり、話相手になってくれたりしました。

彼女と親友になった私は、自然に周囲に心を開いてゆき、2ヶ月もたつころには、みんなでふざけあったり、楽しく笑いあったりもできるようになりました。

さてそのクラスには、F美という、可愛らしい女の子がいました。
私は彼女に何となく心惹かれていました。
もちろん変な意味ではなく、女の子が見ても可愛いなと思えるような、小柄できゃしゃな感じの子だったので、同性として好意を持っていたのです。
(私はちょっと地黒で背も高いので、今考えると、多少の羨望もおそらくあったのだと思います)

好かれようとしていると効果はあるもので、席替えで同じ班になったことからだんだん話すようになり、彼女が母子家庭であることがわかって、余計に親しくするようになりました。
もっともF美の場合は、死に別れたのではなくて、父親が別の女性と逃げたとか、そういうことだったように聞きました。 彼女も女だけで生活しているということを知ったとき、この子と友達になってよかったな、と心底思いました。
ただそれも、彼女の家に遊びにいくまでの短い間でしたが・・・。

その日、私が何故F美の家を訪ねることになったのか、私は覚えていません。
ずいぶん昔の話だからというのもありますが、それよりも、彼女の家で見たものがあまりに強い印象を残したので、そういった些細なことがあやふやになっているのでしょう。
その時S子もいました。

それまでも、S子はF美のことをあまり好いておらず、私が彼女と仲良くすることを好ましくは思っていないようでした。

それなのに何で彼女がついて来たのか、私には思い出せません。しかしとにかく、学校の帰り、家が全然別の方向なのにもかかわらず、私とS子は何かの用事でF美の家に寄ったのでした。

彼女の家は、正直古さの目立つ平屋で、木造の壁板は反り返り、庭はほとんどなく、隣家との間が50センチもないような狭苦しい場所にありました。
私はちょっと驚きましたが、おばあちゃんの家も年季は入っていますし、家計が苦しいのはしょうがないだろう、と思って自分を恥ずかしく思いました。

「おかあさん」

F美が呼ぶと、少ししわは目立つものの、奥からにこやかな顔をしたきれいなおばさんが出てきて、私とS子に、こちらが恐縮するほどの、深々としたおじぎをしました。
洗濯物をとりこんでいたらしく、手にタオルや下着を下げていました。

「お飲み物もっていってあげる」

随分と楽しそうに言うのは、家に遊びに来る娘の友達が少ないからかもしれない、と私は思いました。
実際、F美も「家にはあんまり人は呼ばない」と言ってましたから。
もしF美の部屋があんまり女の子らしくなくても驚くまい、と私は自分に命じました。
そんなことで優越感を持ってしまうのは嫌だったからです。
しかし、彼女の部屋の戸が開いたとき、目にとびこんできたのは、予想もつかないものでした。

 

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